ホームページ制作の料金は制作会社によって様々ですが、最近「初期費用無料(タダ)!」「0円で自分のホームページを持つことができます!」のような宣伝文句が売りの業者が増えています。
初期費用がかからないかわりに一定期間月額料金を支払う契約を結ぶ月額制のサービスで、今流行りのサブスク(サブスクリプション)型のサービスとも言えます。
制作費用に数十万円~、とかかる従来型のサービスよりも初期費用が抑えられ、特にビジネス立ち上げ間もない場合やこれから開業する小規模事業者には魅力的に映るかと思いますが…注意点や落とし穴はないのでしょうか?
今回は初期費用無料のサブスク型WEB制作サービスについて、制作会社の目線から見たメリット・デメリットや依頼する際の注意点を説明していきます。
月額制のWEB制作会社に依頼しようと考えている人はぜひ参考にしてくださいね。
サブスク型(月額制)WEB制作サービスとは?
それではまず、そもそもサブスク型のWEB制作サービスとは何か?簡単にご説明しておきましょう。
サブスク型のWEB制作とはその名の通り、サブスクリプション(subscription)型のWEB制作サービスになります。従来のホームページ制作では、たとえば「制作一式で50万円」といったまとまった金額での見積りになりますが、サブスク型制作はいっぺんに費用を支払う必要が無く、月々5000円の支払い契約を結べば、最短数週間で自分のホームページを持つことができる…といった形になります。
疑似的な分割払いのようにも考えることができますが、分割払いと違うのはあくまで「subscription(定期購読・継続購入)」ということ。
必ず支払わなければいけない総額料金などもなく、月額を利用している間のみサービス(ホームぺージ)を利用でき、月単位での契約変更や解除も可能というのが特徴でしょう。
どうしても発注にはまとまった費用が必要だったWEB制作のハードルを下げ、より気軽にホームページを持てるようにした新しいサービスと言えます。
発注者側から見たサブスク型WEB制作のメリット
それではサブスク型WEB制作の基本を理解したところで、そのメリットを考えていきましょう。
サブスク型WEB制作には従来のWEB制作にはないメリットがいくつもあります。
初期費用がかからない(安い)
冒頭でも述べましたが、発注者側にとってのサブスク型最大のメリットは何と言ってもその費用でしょう。
多くの業者は「初期費用無料、月額〇〇円~」といった形で、着手開始から納品までにかかる費用を非常に安く提供しています。
そのため、通常の制作方式で制作を頼むと安くても20~30万円かかるところ、ごくわずかな手出しで済むため、キャッシュが心もとない創業当初などにおいては非常に心強く感じられるでしょう。
気軽に解約ができる
サブスク型ホームページ制作の場合、多くの場合月額契約になりますので、サービスに不満を感じたり必要が無くなった場合には翌月から解約することも可能です。
ですから、創業開始間もない時期で「自分で制作するのは難しいけど今はまとまったお金がかけられない…」なんて場合に、まずはサブスク型でとりあえず最低限体裁の整ったホームページを用意して、その後事業が軌道に乗ってきたタイミングで本格的な制作を依頼して切り替える…なんて使い方もできるでしょう。
気軽に始められて気軽に辞められるのはサブスク型の大きな魅力です。
ただし後述しますが、会社によっては最低契約期間が定められていたり、解約後はホームページが消えてしまう(継続利用ができない)ことも多いので、注意が必要。
安く、簡単に始められるからと内容をよく読まずに契約することは避けましょう。
発注者側から見たサブスク型WEB制作のデメリット
一見、従来のWEB制作のデメリット…特に費用面を改善した画期的なサービスに見えるサブスク型WEB制作。
発注者にとってはどうせなら安いほうが良いに決まっていますから、初期費用をグッと下げられるのはとても魅力的に映りますよね。
ただ当然、コストカットをしているということはどこかでその影響が出ているわけで…それがサブスク型のデメリットとして表れているのです。
ここからはサブスク型WEB制作の代表的なデメリットを紹介します。
毎月固定で費用が発生する
サブスク型は月額契約がほとんどなので、当然ですが毎月決まった金額が発生します。
たとえば月額プランの中に軽微な更新や修正対応が入っていた場合、利用する月は問題ないですが、利用しなかった月でも同じだけ金額がかかってきます。
デザイン・機能の柔軟な対応が難しい
サブスク型のWEB制作では、多くの場合費用を抑えるためにテンプレートでの制作になります。
自社であらかじめ持っているいくつかのパターンにテキスト原稿や写真を差し込んで、色をちょっと変えて完成…といった具合です。
そのため、同じ会社のサービスを契約しているホームページはどれも似通ったデザインになりますし、搭載できる機能も限定的になります。
会社によってはオプションやトッピングといった形で、ページや機能の追加も別途料金で対応可能ですが、あくまで用意されている範囲の中での対応なので、通常のWEB制作のように思ったようなデザイン、機能を実装することは難しい場合が多いでしょう。
長期的に見るとコストが嵩む
また、サブスク型は長期的に見ると想像以上にコストが嵩みます。
毎月1万円の契約であれば1年間で12万円、2年間で24万円、5年間で60万円…と、契約を解除しない限り半永久的に費用がかかり続けます。
最低契約金が定められているものも多いので、とりあえず1ヶ月だけやってみて気に入らなければ即解約…というのは難しいでしょう。
一方で、従来型のWEB制作であれば、制作後の保守や管理はお願いせず自社で管理する場合、月額のサーバー代(安いものだと500円~1000円前後)と、ドメイン代(種類によって異なりますが年額1500円程度が多いです)の実費しかかかりません。ざっくり月々にならして1000円~2000円程度の維持費で済むことが多いです。
そのため、初期費用がかからないとはいえ、契約が長期になるといずれコストは逆転します。
また、契約内容にもよりますが、サブスク型の制作の多くはその所有権が制作側にあります。
これはどういうことかというと、ホームページの一切の権利を制作会社側が持っているので、解約をするとそのホームページを継続利用できず、全て消えてしまう(消してしまう)…ということ。
たとえばAmazonプライムやネットフリックス、DAZNなどのサブスク型のサービスを思い出してもらえるとわかりやすいと思いますが、月額料金を払っている間は映画や音楽、スポーツ放送を自由に観られますが、解約後は映像は手元に残りませんよね?それと全く同じことです。
月額を払っている間は自由に見られる、使えるけど解約すれば一切何もできなくなる…というのはまさに“サブスク型”と言えるでしょう。
一部、お金を支払えば権利を譲渡してくれるパターンもありますが、権利を業者側が持っている以上言い値のようになってしまいますし、結果的に通常の制作と比べると割高になることも多いです。
ある程度長期間の契約になると、メリットよりもデメリットのほうが大きくなってくるのが、サブスク型のWEB制作の特徴と言えます。
なぜこんなことが起きるのか?WEB制作会社側の事情
初期費用を抑えられて月々の支払いも少額と、発注者側にとってメリットが大きそうなサブスク型のWEB制作サービスですが、今見てきたように、細かく考えていくとトータルで損をすることも多いです。
いったいなぜそんなことが起きるのでしょうか?
これは事業者側の立場になって考えるとそのカラクリが見えてくるのですが…今回はWEB制作会社としての立場から、サブスク型サービスの内情を暴露します。
流行りの“サブスク”という言葉の集客力
「サブスク」「サブスクリプション」と言うと、要は月額払いの契約なのですが、それを月額払いと言わずに“サブスク”とカタカナに置き換えるだけで「ん?」と興味を持ってもらえる確率がグッと上がります。
漢字から横文字に置き換えるだけで、何か新しい、先進的なサービスなのかも?と思ってもらうことができ、サービスページにたどり着いてくれる人が非常に多くなります。
つまり同じサービスを提供していても、名前を変えるだけで集客力が大きく上がるのです。
そうしてサービスページを開くと『初期費用無料!』『月額〇〇円から!』『いつでも解約可能!』といった具合に、ホームページはほしいけど費用はあまりかけられない人にとって魅力的な言葉がたくさん並んでいて、「なんかいいかも」「費用も安いしとりあえず契約してみようかな」とそのまま成約に至るケースも少なくありません。
帳尻を合わせるための制作内容
ただ、契約してもらったとしても初期費用を0円、月額5000円といった金額での制作はハッキリ言って不可能です。
別の記事でも詳しくご説明しましたが、WEB制作における経費の大部分は人件費が占めます。何かを仕入れて製品を製造加工するわけではないので、原価という概念も曖昧ですし、それゆえに経費を削減するにも限界があります。
たとえば月給20万円でエンジニアやWEBデザイナーなど3人を制作会社で雇うとします(実際には新卒以外の経験者であればもっと給与相場は高いです)。
そうすると、給与だけでも単純計算で月20万円×3人=60万円かかりますし、実際には保険や諸経費なども入れるとその何倍もの金額が必要です。仮にそれら給与以外の経費を一切抜きで考えたとしても、たとえば初期費用無料、月々5000円の契約だとすると、月に60万円稼ぐためには120件の契約が必要になります。そこで初めて収支はプラスマイナス0です。
もちろんそのまま契約が継続すれば単月で見れば翌月にはプラス60万円、翌々月にはプラス120万円…となりますが、そこまでの契約数に至るまでは赤字を垂れ流している状態です。ですから、まともに費用を計上してまともに制作しようとすると、月々5000円~のような料金設定では、赤字から黒字に転換するまでの長い期間を耐えることは、よほどの大手でも無いかぎりは不可能です。
またたとえ契約を取れたとしても、そもそも3人のエンジニアやデザイナーのみで月間120件もの案件をこなすなんてことは困難どころかほぼ100%不可能といっても過言ではありません。普通のWEB制作であれば、かなり簡略化したものでも1~2件納品できれば良いほうでしょう。
これを無理矢理解消するためには、一切コーディング(プログラミング)などは行わず、デザインも新規で作らず、あらかじめ用意してあるテンプレートに素材(画像やテキスト)を流し込めば完成…といった形で、技術や経験のない人間でもやり方を覚えれば流れ作業でできる、“金太郎飴方式”で制作するしかありません。
そうした理由から、サブスク方式での制作では、さきほどお話したように全てが同じようなホームページになってしまうのです。
単価を吊り上げるためのプランやオプション
また、少しでも利益を上げるためには、経費削減の他に顧客単価を上げる方法もあります。こちらはビジネス的には王道ですね。
サブスク型のWEB制作でいうと、「上位プラン」や「オプションサービス」がそれにあたります。
たしかに最安値の契約の場合、初期費用0円で5000円から始められるけど、それだけではとても実用に耐えらない。最低でもひとつ上かふたつ上のプランじゃないとまともなホームページは作ることができない、というパターンも少なくありません(もちろん全ての制作会社がそうとは言いませんが)。
また、プラン自体はそこまで高くなくても、そのままでは機能が少ないため、希望する機能を別に「オプション」という形で契約するパターンもあります。
つまり、サブスク型制作ではこの上位プランやオプションによって利益を出すわけです。
あくまで最安プランは広告のようなもので、実際に契約してほしい本命は他にある、ということですね。
もちろん、それ自体はなんら問題のあることでもなく、お客様が希望されていて内容に満足しているならそれで良いのですが…
多くの場合、プランを上げたりオプションを付けたところで、土台のクオリティが低いのでなかなか満足いくものに仕上がらないですし、そのわりにあれもこれもと付けると結果的にはけっこうな料金になって、結局普通に制作したほうが満足のいくものもできて安上がりだった…なんてことにもなりかねませんので注意が必要です。
私たちはサブスク型WEB制作をやめました
お客様にとっては初期費用が安く済み、制作会社も契約までのハードルが低く受注増に繋がりやすい…と、一見お互いにメリットが多そうなサブスク型WEB制作ですが…
こうして細かく見ていくと、そもそもビジネスモデルとして成立させるのはかなり難しいものだということがわかるのではないでしょうか?
これを実現しようと思えばどうしてもどこかに歪みができ、しわ寄せがきてしまいます。
ですから、私たちはサブスク型のWEB制作をやめました。
というより、お客様のご要望などもあり導入も検討はしましたが、実現は困難だったので「導入を諦めた」というほうが正しいでしょうか。
その理由は今ご説明してきたとおりですが…
たとえば私たちがゼロからサブスク型のWEB制作サービスを提供しようとすると、ざっくり計算しても2~3年間は赤字の状態を耐えるための資金力が必要になります。
またそれだけの資金を投入しても、赤字から黒字に転換するためには、さきほどご説明した金太郎飴的な制作方式で、クオリティをかなり妥協し、お客様から要望の多い機能実装も、金額によってはサービスの対象外とお断りしなければならなかったり、通常の制作よりも割高な内容で提供せざるを得ません。
そうなると、結局総額で考えたときに通常の制作方式で制作したほうが安上がりで、かつクオリティも一定の物を担保できるため結局はお客様のためにもなりますし、私たちも必要以上のリスクを背負うことなく安定した経営ができるため、よりお客様のことを考えたサービスを提供できるのです。
ですから、少なくとも私たちと私たちのお客様にとっては、サブスク型のWEB制作はメリットがないと判断したために、導入を中止したという経緯があります。
メリット・デメリットをよく考えた上で契約を
というわけで、今回は最近流行の「サブスク型WEB制作サービス」について、発注者(顧客)側、受注者(制作会社)側、双方の立場に立って詳しく切り込んでみました。
繰り返しになりますが、一見メリットが多そうなサブスク型制作でも、実はビジネスモデルから分解して考えていくと、デメリットやリスクも多く孕んでいるのが実情です。
もちろん、全てのサービス提供者が手抜きだとは言えません。中には本当に真摯に、真っ当にサービスを提供しているところもあるでしょう。
ただ、ビジネスとしてまともに成立させようと思ったら、少なくとも最初の数年間は赤字を覚悟でサービスを展開し、その分野で他の追随を許さないナンバーワンの地位を確立するのはもちろん、他の競合を全て駆逐してオンリーワンの位置を確立するくらいの気概がないと難しいのが現実です。
それを実現できる資金力や環境、人材を持っている制作会社がどれくらいあるかというと…?ほとんどのサービス事業者はどこか見えないところで帳尻を合わせていると考えても良いでしょう。
たしかに初期費用や月額費用が安く抑えられ、とりあえず自社のホームページを持てるというのは、多くの小規模事業者によっては魅力的かと思います。
ですが、それが本当に自社にとって良いサービスなのか?本当にお得なのか?は検討する必要があるでしょう。
なんのためにホームページを作るのか?その目的を実現するためにはそのサービスで大丈夫か?という基本に立ち返って考え、安物買いの銭失いにはならないようにしてください。